2011年度　前期第2回　細胞生物学セミナー

日時：7月12日（火）15:30~

場所：総合研究棟6階 クリエーションルーム

Hypergravity prevents seed production in Arabidopsis

by disrupting pollen tube growth

Musgrave, M. E., Kuang, A., Allen, J., van Loon, J. W. A. J（2009）

Planta 230: 863-870

シロイヌナズナにおいては過重力により花粉管伸長が異常をきたし、種子生産が阻害される

植物の進化における重力の役割については近年関心が寄せられている。科学者たちが惑星外における人の居住を想定し、地球と異なる環境が私たちに課す困難さについて考慮する際、特に私たちの身体が１Gという環境に適応していると考えられる。筆者らは植物に着目し、常に一定方向の力として働く重力に対していかに陸上植物が適応しているかを研究している。

筆者らは本研究において重力が生殖発生の初期段階においてどのような影響を及ぼすのか調べた。研究材料としては、13日生育させたシロイヌナズナ（Arabidopsis thalina L.）の植物体をNASAエイムズの大型遠心機を用いることで２Gまたは４Gの重力加速度に曝して11日間生育させ、生殖生長について分析を行った。２Gではコントロールである１Gと開花のタイミングや個体あたりの開花数や発達した長角果の数において差異は見られなかった。しかし４Gにおいては開花のタイミングは１Gと変わらなかったが、長角果は3mm以上の長さに発達したものはほとんどなく、種子の数も少なかった。以上の結果から１から４Gという狭い範囲の重力でシロイヌナズナの生殖過程が影響を受けることが分かった。

筆者らは、生殖過程のどの部分で重力の影響を受けるのか詳しく調べた。花粉生存率は過重力による影響は見られなかった。しかし生体内で４Gで柱頭における花粉の発芽の様子を調べたところ、発達した花粉管の数が激減していた。in vitroでの花粉発芽実験により、花粉管の伸長は敏感に過重力に反応し３G以上では異常な形態を示すことが分かった。ただ、低レベルの過重力（1.3G）では花粉管の長さはむしろ有意に増加した。シロイヌナズナでは４Gで生殖過程に差異が出たが、アブラナ科であるカブ（Brassica rapa）は４Gの過重力下においても種子を生成することが以前の研究からわかっている。そこでカブの花粉発芽における過重力の影響をin vitroで調べたところ花粉管の長さは４Gにおいても影響を受けず、１Gの半分まで伸長阻害されたのは６G以上の過重力に曝された場合であった。

これらの結果から、シロイヌナズナは４Gにより花粉管伸長が阻害され、種子生産が行われなくなること、また花粉管伸長の重力感度には種による差があることが分かった。過重力での花粉管伸長に関して種による差の仕組み委を明らかにするためにはさらなる研究が必要である。また、地球上の重力と異なっていても、植物が育つことが予測され、このことは宇宙における人の居住の基礎となると考えられるが、その際に用いる植物種の選択は重要となるだろう。

興味をもたれた方は是非ご参加ください。　久野　馨子